今回作中に登場する人物です。 え、見覚えのあるキャラがいるって? 気のせいです(嘘w) しかしこのサイズでこの人数描くのは大変でしたわ。 描くのは楽しかったですが。 では以下小説をお楽しみください。
■ 不思議の国のタロット事件 ■ ここはワンダーランド。 ちょっと気の弱いハートの王様とワガママなハートの女王様が治める夢の国。 ウサギやネコや青虫などの奇妙な住人たちが面白おかしく暮らす不思議の世界。 毎日のように事件が起きる、非日常が日常な日々。 さて今日はどんな事件が起きるのでしょうか。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (くそっ、甘かった。まさかまだ生きていたとはしぶとい奴め。 今は大丈夫か、もう息はしてないようだな) 予想外の出来事に内心激しい焦りを感じて悪態をついたものの、 横たわって冷たくなった彼女の目の奥を覗いて彼は息をつきました。 ですがまだ安心したわけではありません。 視線を彼女の手に移しました。 右手に2つのティーカップが握られています。 (っ・・・こんなもの残しやがって) 彼女の死に際の行動に彼の動悸は激しくなります。 彼女の最後の言葉が自分を指しているのですから。 (やはり壊すしかないのか) しかしティーカップを壊したところで ティーカップがあった事実がなくなるわけではありません。 持ち去ったとしてもティーカップがなくなったことが分かれば怪しまれます。 なにか他の手を打たなくては、いずれ自分のことがバレてしまいます。 早く・・・・早くなんとかしなければ・・・・。 (・・・・・・・・・・) そうして、ほんの数秒なのか、数分なのか。 彼はあることを思い出して口元を緩めました。 (そうか、これはこのままでも大丈夫か。これならきっと) その後すぐに彼は姿を消しました。 そこにはもう冷たくなった彼女しか残っていません。 物音1つしない重苦しい空気。 彼が来る前と後では結局何も変化はありませんでした。 いえ、1つを除いては。 床に散らばったタロットカードが数枚消えていたのです。 きぃきゃぁぁああああああ!! その甲高い悲鳴が聞こえてきたのは深い森の奥からでした。 アリス月女はシロウサギを追ってワンダーランドに迷い込んでしまった少女です。 穴に落ちて海で溺れそうになってトランプ兵に捕まって、 元の世界へ帰る方法も分からず今はシロウサギの少年の家にお世話になっています。 彼女は特殊な能力の持ち主でした。 いえ、これは生まれもった体質。 不運。 とでもいうのでしょうか。 一人でいるとロクな目にあわないのです。 この世界へ迷い込んだのもその不運のせいなのかもしれません。 そして今日も。 思い切って訪れた占い師の家で死体を発見してしまいました。 第一発見者となった月女はすぐにトランプの兵に連れていかれ、 いつものように問答無用で巨大な砂時計の中に閉じ込められてしまったのです。 今も閉じ込められたままなのですが・・・・。 広い部屋の中央にポツンと置かれた砂時計の中、 いつもならうるさいくらいに賑やかなのに、今日に限って周りには誰もいません。 「女王様ぁ・・・・トランプの兵さぁん・・・・」 呼んでみても誰もいないので返事があるわけではありません。 シン・・・・と冷たい音が聞こえそうなくらいです。 広い部屋に取り残されるほど心細いことはありません。 「うぅ・・・・朝比奈くん・・・・」 「月女ちゃーん、迎えに着たよー♪」 「!?」 泣きそうになりながら呼んだ名前から反応があったので驚いてそちらを見ました。 女王の間の大きな扉を少し開けてシロウサギの少年日向がいつもの無邪気な声で入ってきたのです。 相棒の黄色いブタのぬいぐるみワトソンも一緒です。 「朝比奈くん!! うあーん、よかったよー。 みんないなくて私一人でどうしようかと思ったの! 朝比奈くんが来てくれて本当に本当によかったぁ!」 月女がそういうのは淋しさからだけではありません。 不運の持ち主の彼女ですが彼が一緒にいると不運が中和されるようで安心できるのです。 「ごめんねー。月女ちゃんのことすっかり忘れちゃってたよ」 「忘れ・・・・・」 うえーん・・・・。 「あーん、月女ちゃん泣かないで〜。 今出してあげるからね、ねっ。 ワトソンくん手伝って」 月女が泣いたことに流石に驚いた日向は急いで出してあげると、 背伸びをして泣いている彼女の頭をよしよしと撫でてあげました。 砂時計から出してもらった月女は日向にまで忘れられていたことに少々腹を立てたものの、 仕方ないことだと半ば諦めました。 日向は事件が大好きなのですから。 日向は王室専属の弁護士で、趣味で探偵の真似事をしているのです。 きっとさっきまで事件現場にいたか事件について調べていたのでしょう。 「今回はすぐに犯人捕まりそうなの?」 「どうかな? でも女王さまは帽子屋さんたちが犯人だって捕まえちゃったけど」 「帽子屋さん!? 帽子屋さんって、あの!? 三月ウサギくんも!? そんな、あの2人が犯人だなんて」 「でもね被害者のダイイングメッセージが残っていたんだ」 被害者は森の奥に住む占い師のスズラン夫人でした。 死因はナイフで刺されたことによる失血死で、 争そった様子がないことからいきなり刺されたのだろうとのこと。 問題は彼女の手に握られていた2つのティーカップでした。 「ティーカップだからいつもお茶をしている帽子屋さんたちが疑われたのね。 でも本当に帽子屋さんたちが犯人なの?」 月女は帽子屋たちのことを思い出しました。 年寄りのような喋り方をする帽子をかぶった青年と、ちょっとナマイキなウサギ少年です。 2人とも楽しいことが大好きで毎日のようにお茶会を開いています。 変な人たちですがとても人を傷つけるような人には見えません。 「2人はスズラン夫人の所へ行ったことは認めているけど殺してはいないって」 「そう・・・・。朝比奈くんはその・・・あの2人がスズラン夫人を・・・・?」 「んー、どうかなぁ。 ティーカップ=お茶会=帽子屋さんたちってのは安直すぎる気がするんだよねぇ。 ダイイングメッセージなんて犯人が細工することも出来るし、 あまり信用しないようにはしてるんだよ。 意味を解くのは好きだけどねー」 「じゃあ詳しく調べるのね」 「もちろんだよ。ねっ、ワトソンくん!」 「・・・・」 もちろんブタのぬいぐるみは何も言いません。 ですが日向の呼びかけに応えているようでした。 日向とワトソンと月女はもう一度森の奥へ向かいました。 森には何百年も生きている巨大な樫の木が一本あります。 その木を中心に様々な方向へ看板が立っているのです。 【占い師】【帽子屋】【あっち】【昨日】【どこ?】など、 どこに行くのか分からない看板まであります。 「樫の木のおじいさん、こんにちわー」 「・・・・・・・」 「おじいさーん」 日向が呼びかけますが反応はありません。 どうやら寝ているようです。 しつこく呼びかけるとようやくおじいさんは目を覚ましました。 「誰じゃワシを起こすのは・・・・おお、日向と月女か。どうした、なんの用じゃ」 日向はスズラン夫人の事件の調査をしているこを説明して 今日誰が彼女のところへ向かったのか教えて欲しいと頼みました。 「うむぅ〜、教えてやりたいのはやまやまなのだがワシももう歳でなぁ。 はっきりとは覚えていないのじゃよ。それでもよければ教えるが」 樫の木のおじいさんは少しずつ思い出しながら教えてくれました。 ・スペードのQが最初だった気がする。 ・ハートの2以外は前の人か次の人とすれ違ってる。 ・ローブの人物だけ帽子屋たちと月女とすれ違ったはず。 ・双子が占い師の小道から戻ってくるのを見た。 とのことです。 特に怪しいと思う人物はいなかったそうです。 「これだけじゃあ難しいわね」 「そんなことないよ、これでどの順番で誰がスズラン夫人の所へいったかわかったよ。 おじいさんありがとう!」 「ねぇ、あれでどういう順番か分かったってどういうこと?」 道を進みながら月女が尋ねました。 「まず誰があの道を通ったのかわかる?」 「えーっと・・・」 樫の木のおじいさんから聞いた順番で言うと、 スペードのQ、ハートの2、ローブの人物、帽子屋たち、月女、双子の6組です。 「最後は絶対に月女ちゃんでしょ。 月女ちゃんが第一発見者なんだから」 「うん」 「で、月女ちゃんはフードの人とすれ違ってる」 「そうそう、おじいさんに言われて思い出したの。 私、占い師の所へ行く途中にローブを纏った人とすれ違ったのよ」 月女が行くときにローブの人物が帰る。 ローブの人物は帽子屋たちともすれ違っているので、 ローブの人物が行く時に帽子屋が帰る。 「私の前が帽子屋さんてことはないの? ローブの人が帰る時に私と帽子屋さんにすれ違うって」 「だって月女ちゃん、帽子屋さんたちとすれ違ってないでしょ? 月女ちゃんの前に帽子屋さんたちがいたなら、 帰る帽子屋さんとすれ違わないとおかしいよ」 「あ、そうか」 そして一番最初がスペードのQならば次は双子となります。 「どうして?」 「だって『ハートの2以外は前の人か次の人とすれ違ってる』て条件ならハートの2は外さないと。 そうするとスペードのQは双子と、双子はスペードのQとすれ違っていないと条件があわないんだよ」 つまり順番としては、スペードのQ → 双子 → ハートの2 → 帽子屋たち → ローブの人物 → 月女、ということです。 「・・・・ねぇ、朝比奈くん」 少し考えて月女が言いました。 「もう気がついていると思うけど、 ダイイングメッセージに当てはまるのって帽子屋さんだけじゃないと思うの」 スズラン夫人が持っていたティーカップは2つ。 スペードのQ、双子、ハートの2。 どれも2に当てはめることができます。 ローブの人物ももしかしたらそうかもしれません。 「うん、そうだね。僕もそれは考えたよ。 でもね、答えはそんな単純じゃないと思うんだ」 「どうして?」 「スズラン夫人の手には軽い火傷の跡があったんだ。 たぶんそれはティーカップをとるときに中の紅茶が零れて負った火傷だと思うけど、 いくら死ぬ間際だからって他にも物はあるのに わざわざ熱い紅茶が入っているティーカップを取るかな?」 「とっさのことだったから・・・・」 「その可能性もないとは言い切れないけど、でもやっぱり僕は思うんだ」 ティーカップを握ったことに意味があるんだって。 そのまま日向たちは事件現場へ行きました。 スズラン夫人の死体はもうありませんが、それ以外は事件直後のままになっています。 入るのが躊躇われた月女は入り口で待つことにしました。 「朝比奈くん、なにか分かりそう?」 「どうかなぁ」 スズラン夫人が倒れていたのは小屋の真ん中にあるテーブルのすぐ傍でした。 床の上にはダイイングメッセージとして握られていたティーカップが並べて置かれています。 ティーカップから零れた紅茶と血が床に染みこんで不気味な色で乾いてしまっています。 少し離れたところには血に濡れたナイフが。 この状況は月女が発見したときと何も変わっていません。 床に散らばっていたタロットカードを日向は1枚拾い上げました。 「それってタロットカードよね。机の上から落ちちゃったのかな」 机の上には水晶玉やトランプなど占いの小道具と一緒に 紅茶の入ったティーポットも置かれています。 日向の言うようにトランプや小さな水晶など、 熱い紅茶の入ったティーカップよりも手にしやすいものがあります。 ということはやはりティーカップを取ったことに意味があるのでしょうか? タロットカードを手にしたまま日向は小屋の中を見回しました。 死体のあった場所やテーブルの上をしばらくじっと見ていた日向でしたが、 「次に行こうか」 と、視線を外しました。 「もういいの?」 「なんかね・・・・。 すごい引っかかるんだけどそれが何なのかよくわかんないんだ」 表情を曇らせて日向はポツリと言いました。 続いてスズラン夫人のところへ行ったと思われる人物に会いに行き話を聞きました。 スペードのQ 「午前中・・・そうですね9時ごろにスズラン夫人の所へ行きました。 まさか彼女がこんなことになるなんて、とても残念ですわ・・・。 ええ、スペードのKの浮気のことで何度か訪ねていたのです。 ・・・・はい、占いというよりも相談ですわね。 いつも美味しい紅茶を出してくれて一緒に飲みながら私の話を聞いてくれていました。 今日も2時間ほど話をして帰りましたわ。 女同士のお喋りは長いものです。ええ、帰る時に双子の方とお会いしました」 双子のダムとディー 「ん、どうした。ああ、この怪我か」 「いや、たいした理由じゃないんだがな」 「俺たち双子だけど、どっちがいい男かって話になって」 「そしたらこいつが俺より自分の方がいい男だって言いやがって」 「俺のほうだよな」 「いや、俺のほうだよな」 「俺だ・・・・・んっ、ああ、つまりそういう理由で占いでハッキリさせようと行ったんだ」 「でも結局占いなんかで俺たちの良さを判断することなんて無理だったよ」 「なぁ月女。俺とこいつ、どっちがいい男だ」 「選んだ方といいことして・・・・って、逃げられちまった」 「あー・・・・んで、なんだったけ。 ああ、占い師のところに行ったのは11時過ぎくらいだ。 一緒に茶を飲んだだけだから30分ほどいたな」 「スペードのQ夫人ともすれ違ったぜ。さっ、もうこれでいいだろ」 「じゃあ続きでもするか」 「どっちが男前かをかけて」 『・・・・・・ファイッ!! うらぁっぁあああっ!!』 ハートの2 「はい、スズラン夫人の所へは行きました。時間ですか? たしか・・・・1時前だったはずです。 この間の占いの結果を報告しようと思って。 実は1週間ほど前、ワラをもすがる思いで訪ねたのですよ。 その・・・お恥かしい話ですが付き合っていた彼女に別れ話を 切り出されてしまってどうすれば仲直りができるか占ってもらったのです。 ですが占いのほうもあまりよい結果ではありませんでした。 努力をしたのですが結局別れてしまい、その報告のために行ったのです。 報告だけだったので10分もいなかったと思います、はい」 帽子屋、三月ウサギ 「助けてくれ日向。ここはお茶がないうえに退屈すぎじゃ」 「トランプの奴ら全然気がきかねぇんだよ。 お前たちも来るんならお茶くらい持ってきてくれよな」 「それで、お前さんたちは何しに来たのじゃ。 うむ、今日のことか。占い師の所に行ったのは本当のことじゃ」 「今日のお茶は何にしたらよいか占ってもらうために行ったのさ。 だから時間は2時ごろか」 「スズラン夫人はワシらと同じお茶好きだからの。 いつも一緒にお茶を飲んでたわ。 しかしの、行ったのはいいが鍵がかかって留守じゃったわ」 「入り口のところで1時間くらいお茶して待ってたけど全然帰ってこないんだぜ」 「じゃから会ってもなければ殺すことも出来るはずないのにワシらを犯人扱いしよって」 「あのワガママ女王様じゃしかたねぇよなぁ」 「女王様にはジャムが足りないのじゃ」 「バターだな。・・・・ん、ローブの人物? 森の中で会ったぞ」 「でも誰なのか全然わかんなかったのお」 月女 「えっ、私も!? えーっと、占い師さんの所に行く途中で ローブの人とすれ違ったけど誰なのか分かんなかったわ。 人に知られたくないことを相談する人もいるみたいだし、 そういう人かなぁって思ったくらい。 小屋の前に行ったら扉がほんの少し開いていたの。 一応外から声をかけてみたんだけど返事がなくて、 聞こえてないのかと思って扉から覗いたら倒れているスズラン夫人がいて・・・・」 このようにローブを着た人物以外の5組の証言を聞くことが出来ました。 「帽子屋さんたちが行ったときにはスズラン夫人は留守だったみたいだね」 「でも私が行ったときは鍵も掛かっていなかったし扉も少し開いていたわよ。 ハートの2さんが行った後でどこかにでかけたのかしら? だとしたら帽子屋さんのあと帰ってきたところを殺されたってこと?」 「どこかへ行ったのなら必ず樫の木のおじいさんに見られているはずだよ」 しかしさっきの樫の木のおじいさんとの会話では スズラン夫人の名前はありませんでした。 「とにかくローブの人にも話を聞かないとダメみたいだね。 鍵は開いていたのかいなかったのか。 開いていたとしたらスズラン夫人はまだ生きていたのかそれとも死んでいたのか。 鍵が閉まっていたのならいつ誰が開けたのか・・・・」 うーん・・・・と考えていた日向ですが急に顔を上げて月女を見ました。 「あれ、そういえば、どうして月女ちゃんはスズラン夫人の所にいったの?」 「えっ!」 「なにか占ってもらいたかったの?」 「えーっと・・・・」 「ねぇねぇ、なにを占ってもらうつもりだったの? 僕でよかったら相談に乗るよ!」 「そ、それは・・・・ナイショです!」 「あーん、月女ちゃん待ってよぉ」 4つのつぶらな瞳から逃げるように月女は歩き出し、 その後を慌てて日向が追いかけました。 それから次の日までローブの人物について聞き込みをしましたが 手がかりらしきものは一切見つかりませんでした。 いったいローブの人物は誰なのでしょうか。 彼が犯人なんでしょうか? 行き詰った日向たちは森に住むチェシャネコのところへ向かうことにしました。 「チェシャネコくーん」 薄暗い森に向かって名前を呼びます。 するとどこからか間延びした声が聞こえました。 「呼んだかにゃあ〜」 この世界のことならすべてお見通しのチェシャネコです。 声だけで姿は見えませんがきっと近くにいるのでしょう。 分かった上で日向は森に向かって続けました。 「事件のことで聞きたいことがあるんだ」 「事件? 事件というのは公爵夫人のところの料理人が 味付けを間違えて夫人を怒らせたことかにゃ? もしくはバラ園のバラが黄色なったことかにゃぁ。 はたまた愛憎劇ゆえの事件かにゃ?」 「スズラン夫人の事件だよ」 知ってはいるけどにゃあ。 「ひゃあ!!?」 突然耳元から聞こえた声に月女は悲鳴をあげて身体を硬くしました。 なんのことはありません、チェシャネコが肩の上に乗っていたのです。 彼が神出鬼没なのは重々承知。 でどこから現れていもいいように心構えはしているのですがいつも驚かされてしまいます。 耳元で声が聞こえるのは嫌なので月女はチェシャネコを掴むと胸に抱きかかえました。 ニヤニヤ表情からは何も読み取れませんが喉がゴロゴロ鳴っているのを聞くと もしかしたら心地よいと思っているのかもしれません。 「スズラン夫人について教えてよ」 「スズラン夫人かにゃ。占いとお茶が趣味のおばあさんだにゃー。 よく当たるし話し上手聞き上手だからいろんな人が相談に行ってたにゃあ」 「今回の事件も占いが原因かもってこと?」 「そうかもしれないし違うかもしれないし その反対かもしれないし反対の反対かもしれないにゃ」 知っているくせにチェシャネコはわざとはぐらかそうとします。 こうなるとこれ以上追求しても答えはありません。 「他には。他には何か知らないの?」 「なーんにも知らないにゃ」 「嘘でしょ」 「嘘だにゃ。1つだけ知っている事があるにゃ」 「本当!?」 「月女がどうしてスズラン夫人の所に行ったか知ってるにゃ」 「へっ?」 「えっ、なになに、月女ちゃんの秘密!? 気になるよねワトソンくん!」 「月女はにゃ」 キャーキャーキャー!!! 「言っちゃダメッ!!!」 月女に口を押さえられチェシャネコの言葉は止まりました。 口を押さえられたくらいで彼を止めることができるはずがないので、 きっとわざと喋るのを止めたのでしょう。 「月女ちゃんのケチー」 「女の子の秘密は知っちゃダメなの!」 にゃにゃにゃにゃにゃ。 チェシャネコの意地悪な笑い声が森に響きます。 見ると月女の腕の中に彼の姿はありませんでした。 「あっ、待って! ローブの人物についても教えてよ!」 しかしチェシャネコの歌が聞こえるだけです。 知らないたら知らないにゃ〜♪ なーんにも見てない、知らないにゃ〜♪ 森の子供たちのその先に、占い師ぃが住んでいる♪ 知らないたら知らないにゃ〜♪ 知っているけれど知らないにゃあ〜♪ 「占い師・・・・・?」 月女は首を傾げました。 「森の子供たちってなんなのかしら?」 「キノコのことだよ」 「キノコ?」 「森は木の集まりでしょ。つまり木の子供・・・木の子・・・きのこ・・・ってわけ」 「・・・・・・変な洒落」 チェシャネコの歌の通り、キノコがたくさん生えている森に入ると 大きなキノコの上で横になって読書をしている少年と出会いました。 長い三つ編の色は白、来ている服は赤の着物。 「青くんこんにちはー」 日向が声をかけると本から意識を引き離された青は 気だるそうに起き上がって2人に紅い目を向けました。 「2人してどこ行くのさ? ああもしかして事件でもあったの」 外部との接触が少ない彼は日向が動いているのを事件と結びつけたようです。 「そうなんだ。それでこの先にいる占い師の所に行くんだ」 「占い師ぃ? まさか占いで犯人を見つけてもらうつもり? いや日向がそんな面白くないことするはずないね。 そもそも占いが完璧とは限らない。じゃあ何しに行くのさ?」 「うーん、チェシャネコくんのヒントだから一応行ってみようかなぁって」 「ふーん」 占い師の言葉には食いついてきたのにチェシャネコの名前を出した途端 興味を失ったらしく青は再び横になると本に目を落としました。 「ねぇ青くん。その占い師のこと知ってる?」 「まぁ噂くらいはね」 「どんな人なんだろう?」 すると彼は本から目を離すことなく詰まらなそうに言いました。 「そんなの決まってるじゃん。この世界にいる者なんてみんな」 みんな変人だよ。 青と別れてさらに進むとワンダーランドにも どこの国にも属さない森の中に小さな家を見つけました。 ここが占い師の家なのでしょう。 トントントン 「はーい」 ノックをすると返事があり中から扉が開けられました。 現れたのはイヌミミを生やした金髪の少女・・・・否、少年です。 「なにか用?」 「占い師に用があるんだけど君がそうなの?」 「ああ、占いね。僕じゃないよ、中に入ってちょっと待ってて」 彼は日向たちを中に通してイスに座らせるとそのまま階段を上がって2階へ行きました。 「おーい、お客さんだよー」 しばらく待つと少年が黒髪のネコミミ少女の手を引いて降りてきました。 「眠い・・・・」 どうやら昼寝の最中だったらしく眠たそうに目蓋を擦っています。 少年は彼女を日向たちの前に座らせると、 「ほら、久しぶりのお客さんなんだからちゃんと対応しなきゃダメだろ」 「お茶いれてちょうだい・・・・・。で、あなた達はどういう用件なの」 こんな寝ぼけた状態で大丈夫なのかと月女は思いましたが 日向は気にせず今回の事件の詳細を彼女に話しました。 するとそれまでぼーっとしていた占い師の表情が徐々に色づいて 最後には不敵な笑みを浮かべていました。 「なるほどね」 すべてを聞き終えた彼女の最初の一言はそれです。 「何か分かった?」 「ええ、分かったわ。スズラン夫人が残したダイイングメッセージの意味が」 「ホント!? あ、でも言っちゃダメっ! 犯人は言わないで!」 どうしても自分で犯人を見つけたい日向は占い師に釘を刺します。 「言わないわよ。それだけで犯人を決め付けるわけにはいかないからね。 だからあなたたちが犯人と思える人物を絞ったとき、またここに来てちょうだい。 そのときにダイイングメッセージと答えあわせをしましょう」 そして占い師は事件について占ってくれました。 彼女が占いに持ち出したのはスズラン夫人の事件現場に落ちていたのと同じタロットカードです。 テーブルの上にカードを広げて1枚1枚並べて見て行きます。 「この事件・・・・まだ終わってはないわね」 「まだ事件が起きるの!?」 「ええ、きっと起きるわ。 戻ったら彼女のところにあったタロットカードが今何枚あるか数えてみて。 本来ならば78枚あるはずよ。 数が足りないとしたら、その数だけまた事件が起きるはずよ」 何もかも見通したかのようなブラウンの瞳が鋭く光りました。 スズラン夫人のところでタロットカードを調べたところ75枚ありました。 「78枚あるって言ってたからなくなったのは3枚ね」 「ということは3つの事件が起きるかもしれないんだね」 「・・・・朝比奈くん、もしかして事件が起こることちょっと期待してない?」 「あは、ちょっとだけ。 でも起きちゃった事件の謎を解くのは好きだけど事件が起きるのはやっぱり嫌だよ。 だから事件が起こらないように警戒しなくちゃねっ」 日向たちがお城に戻ったところジョーカーに呼び止められました。 「いいところに戻ってきた日向。探していたぞ」 「あ、ジョーカー。僕も今から君のところに行こうと思ってたんだ」 ジョーカーは奇術師のような変わった服装をしていますが、 その実、ワンダーランド唯一の裁判官であり、トランプの兵を束ねる長であり、 お城の中のことを王様、女王様に代わり取り仕切るすごい人物なのです。 「そうか。それは後で聞くとして、探していたローブの人物が見つかった。 こいつが今日自ら名乗り出てきたのだ」 ジョーカーの後にはバツが悪そうに視線を落としたクラブの2がいました。 「今まで黙っていてスミマセンでした。 その・・・・・変な事件に関わりたくなかったんです。 占い師のところに行ったのも、あの・・・知られたくなくてそれで・・・・。 えっ、あ、は、はい、スズラン夫人の死体は見ました・・・・はい。 様子ですか? それは・・・・・えーっと、あまり覚えていません。 ・・・・・・あの、もういいですか。あまり事件には関わりたくないんです」 そう言ってクラブの2は逃げるようにそそくさと去ってしまいました。 彼の後姿を射るように見つめながらジョーカーは言います。 「あいつ、嘘をついているな」 「そうなんですか。じゃあ今の証言も嘘?」 「長年いろんな人物を見ているからな、嘘をついているかどうかくらい判断できる。 あれは絶対嘘をついている態度だ」 「じゃあもう一度話を聞かなきゃダメだね。 今聞いても答えてくれなさそうだし明日にでも聞くことにするよ」 「それがいいだろ。では日向、お前の方の用件はなんだ」 日向は占い師に言われたこととなくなっていたタロットカードについて説明し、 事件を未然に防ぐように警戒をするようにと伝えました。 「うむ、わかった。 今からワンダーランド全域にトランプの兵を配置させ警戒を強化させよう」 しかしその強化も虚しく翌日、1つの事件が起きてしまいました。 「おい、こっちだ! 早く来てくれ!!」 海辺に住むカキ兄弟の四女が岩陰で死んでいるのを探しに来た兄弟に発見したのです。 死因は心臓に深く突き刺さった1本のナイフ。 犯人はよほど彼女のことが憎かったのか、他にも9本のナイフが身体に刺さっていました。 彼女の傍に1枚のタロットカードが落ちていました。 【]】と書かれたカードには彼女と同じように 10本の剣が突き刺さって倒れている人物の絵柄が描かれています。 まるでこの絵を真似て彼女が殺されたように。 日向たちは急いでクラブの2のところへ向かいました。 彼がなぜ嘘をついたのか。 何を隠しているのか。 真相を知るためです。 ですが・・・・。 何も知ることは出来ませんでした。 クラブの2と話すことが出来なかったのです。 彼は崖から落ちて死んでいました。 崖の上には自分がスズラン夫人とカキの四女を殺したとの遺書とタロットカード。 【愚者】 崖の上に若者が一人立っている絵柄です。 この絵に倣って崖から身を投げたのでしょう。 つまり犯人の自殺です。 なぜスズラン夫人とカキの四女を殺したのか理由が記されていなかったこと、 タロットカードに見立てての死だったことに人々の間からはこんな噂が囁かれました。 これはスズラン夫人の仕業に違いない。 一人では淋しいので仲間を作ったのだ。 犯人に対するスズラン夫人の復讐だ、と。 理由はどうであれ犯人の自殺によりこの事件は日向の出番なく幕を閉じることになりました。 「うー・・・・・」 オムライスを食べるためのスプーンを口に咥えたまま日向は宙を見つめたまま呻きました。 オムライスは3つ、ちゃんとワトソンくんの分も用意されています。 「どうしたの朝比奈くん。もう事件は終わったじゃない。何か気になることでもあるの?」 「うーん、なんか引っかかるんだよねぇ。ワトソンくん、何が気になるかわかる?」 もちろん聞いたところでぬいぐるみが答えるはずもありません。 が、日向はちゃんと会話しています。 「やっぱり事件現場だよね。僕も最初見たときから何か引っかかってたんだ。 それになくなったタロットカードの1枚がまだ見つかってないし」 本当にワトソンの声が聞こえているのかどうか。 「月女ちゃん、もう一度事件の整理しようよ。どうも納得できないんだ」 「朝比奈くんがそう言うなら」 2人と1匹はオムライスを食べながら最初から事件の整理をはじめました。 事件の発覚は第一発見者である月女の悲鳴によるものでした。 殺されたのは森の奥に住む占い師のスズラン夫人。 死因はナイフによる刺殺。 現場には2つのティーカップと床に落ちたタロットカードがありました。 その日スズラン夫人の所へ行ったのは6組。 9時ごろ スペードのQ 11時ごろ 双子のダムとディー 13時ごろ ハートの2 14時ごろ 帽子屋と三月ウサギ(1時間待機) 15時ごろ ローブの人物(クラブの2) 15時過ぎ 月女 ここで矛盾が生じます。 「帽子屋さんたちが行ったときスズラン夫人の小屋は扉に鍵が掛かっていて留守だったんだよね」 「でもクラブの2さんが犯人だとしたら鍵が掛かってたらおかしいのよね」 ハートの2と会った後スズラン夫人は扉に鍵をかけてどこかへ出かけ、 帽子屋が帰った後に小屋に戻って来たのでしょうか? 「それなら樫の木のおじいさんに目撃されてなきゃおかしいんだよ」 ですが樫の木のおじいさんの証言にスズラン夫人の名前はありませんでした。 それにジョーカー曰くクラブの2の証言には嘘があるとのこと。 「じゃあこの矛盾はひとまず保留ね」 その後、占い師の予言どおりタロットカードの事件が2つ起きてしまいました。 1つはカキの四女(刺殺。【剣の]】) 1つはクラブの2(転落による自殺。【愚者】) 「スズラン夫人のダイイングメッセージは2つのティーカップ。 犯人がクラブの2さんならダイイングメッセージどおりよね」 「そうだけど・・・・うーん、でもやっぱり何か引っかかるよ。 鍵の問題もそうだし、事件現場も、もう1枚のタロットカードの行方も」 再びスプーンを咥えて日向は黙り込んでしまいました。 日向の様子に月女はワトソンと顔を見合わせて肩をすくめます。 1つを除いてオムライスはもうありません。 「朝比奈くん、食後のお茶飲む?」 「うん」 上の空の返事にもう一度肩をすくめて月女はお茶の用意をはじめました。 温めたポットに茶葉を入れて熱いお湯を注ぎ、 3分ほど置いてから温めたカップに注いで、はい出来上がり。 3つのカップをトレイに乗せて運ぼうとしたとき、やってしまいました。 「きゃーっ!!」 月女の悲鳴とともに陶器の割れる音。 「どうしたの月女ちゃん!」 日向が駆け寄ったとき月女の足元には床に転がった2つのカップと零れた紅茶、割れたカップがありました。 手を滑らせてトレイを落としてしまったのです。 「月女ちゃん大丈夫、火傷してない?」 「う、うん、大丈夫」 そう言って月女は割れたカップの柄をつまみあげました。 2つしかなかったティーカップですが彼女がここに来たことにより 日向が同じものをもう1つ用意してくれたのです。 「ごめんね、ティーカップ割っちゃって」 「カップなんていいよ、また用意すればいいんだから。 それより早く床を拭かなきゃ、濡れたままだと」 言葉が途切れ日向は視線を落としました。 「濡れる・・・・そうか・・・・・そういうことか。 だから気になっていたんだ・・・・」 「どうしたの?」 「月女ちゃん僕分かったよ、何が気になっていたか! もう一度事件を調べなおすからちょっと出かけてくるね! 晩ごはんはハンバーグでヨロシク! ニンジンはダメだからっ! 絶対にダメだからねっ! ピーマンもっ!!」 「え、あっ・・・・」 何か言おうとする月女ですが日向とワトソンの姿はすでになく、 一人虚しくカップの片づけをしながら小さく溜息をつきました。 その夜。 ハンバーグを食べた後、日向とワトソンと月女は どこでもない森の占い師のところに行きました。 昨日とは違い今日は占い師本人が出てきました。 「あら、意外に早かったのね」 「早く答えあわせがしたかったんだ!」 「今日は一人なんですか? 昨日の彼は・・・・」 「ああ、あの子ならハートの女王様のところに行ってまだ帰ってきてないのよ。 昨日あなたたちが帰った後トランプの兵が来てハートの女王様の護衛を依頼してきたの。 ああ見えてあの子強いんだから」 その強さを買われ、今までも何度かクリスタルランドのシンデレラなど、 他の世界から重役の護衛を依頼されたことがあるそうなのです。 部屋の中に通した占い師は2人をイスに座らせ、テーブルを挟んだ前の席に腰を落としました。 「それで。ここに来たってことは犯人の目星が付いたわけね」 テーブルの上でタロットカードを弄びながら彼女が聞くと、日向はしっかりと頷きました。 「分かってしまえばそんなに難しい事件じゃなかったんだ。 犯人に繋がるヒントは最初から示されていたんだから」 2つのティーカップがね。 「ダイイングメッセージの意味が分かったの!?」 驚いたように月女は聞きました。 実はまだ誰が犯人なのか知らないのです。 日向が帰ってきてからハンバーグを食べてる間ずっと聞いているのに全然教えてくれないのですから。 しかし月女の問いには答えず、日向はさらに問いを被せてきました。 「ねぇ月女ちゃん。帽子屋さんたちの証言覚えている?」 「証言?」 「スズラン夫人とはいつも一緒にお茶を飲んでいたって言ってたでしょ。 スペードのQも双子も、みんなスズラン夫人と一緒にお茶をしているんだ」 「そういえば言ってたわね。それが何か事件と関係あるの?」 月女は首を傾げました。 日向が何を言おうとしているのか良くわかりません。 「チェシャネコくんもスズラン夫人の趣味は占いとお茶だって言ったんだ。 他にもスズラン夫人に占いをしてもらったことのある人に聞いたんだけど、 スズラン夫人は本当にお茶が好きで、いつも一緒にお茶を飲みながら話を聞いて そのあとに占いをしてくれたんだって。 だからもし、帽子屋さんたちが嘘を付いていて本当はスズラン夫人と会っていたとしたら、 ティーカップは帽子屋さん、三月ウサギさん、スズラン夫人の3つあるはずなんだよ」 言われてみればそうです。 しかし現場にあったのは2つだけ。 テーブルの上にもどこにも使いかけのティーカップはありませんでした。 「つまりティーカップが2つなのはスズラン夫人と相談者が1人のとき」 「じゃあやっぱり犯人はクラブの2さんなのね」 「ううん、彼は犯人じゃないよ」 ・・・・・・・・・・あれ? 「・・・・違うの?」 「うん、血と紅茶を思い出してよ」 「血と紅茶?」 「そう。月女ちゃんが紅茶を零したのを見て思い出したんだ。 事件が発覚してすぐに僕が現場を見に行ったとき、 もうスズラン夫人の血も零れた紅茶も乾いていたことを。 今までローブの人物が怪しいと思っていたけどローブの人物、 つまりクラブの2が犯人だとしたらそのすぐ後の月女ちゃんが発見したときには まだ血も紅茶も濡れていなきゃいけないんだよ」 「あっ!」 確かに。 ローブの人物と月女との間の時間は10分も経っていません。 なのに床の上はすでに乾いていました。 「ということはクラブの2さんが行ったときにはもうスズラン夫人は死んでたってこと?」 「そういうこと」 「ならクラブの2さんの証言は本当だってことになるわね。 事件に関わりたくないから黙っていたっていう・・・・あれ?」 ではなぜクラブの2は遺書を残して自殺したのでしょうか。 「そうなんだよ。それにジョーカーの言葉を信じるならクラブの2は嘘をついているはずなんだ」 クラブの2の証言が嘘ならば彼が犯人でなければなりません。 ですが現場の状況からして彼の犯行ではありえないのです。 「じゃあ彼はどんな嘘をついていたのか。 それは彼の証言そのものが嘘なんだよ」 「証言って・・・・関わりたくなかったから名乗りでなかったってこと?」 「名乗り出てきたこと自体だよ。 スズラン夫人の所にも行ってないし現場も見ていない。 彼はローブの人物じゃないんだよ。 たぶん本当の犯人に、自分の代わりに証言してくれと頼まれて そのまま犯人に仕立てられて殺されたんだ」 「ほ、本当の犯人ってっ!?」 日向の穏やかな目の光がすぅーと厳くなりました。 「いい、月女ちゃん。鍵を開けることが出来たのは鍵を持っている人物。 つまり鍵をかけるチャンスがあった人物なんだ。 そしてさっき言ったようにティーカップの数から犯人は一人で来た人物。 これらの条件に当てはまって、最後に生きているスズラン夫人を見た人物がいるでしょ」 「それは・・・・・」 ハートの2。 「正解」 月女が犯人の名前を告げるとそれまで黙って聞いていた占い師は悠然とした笑み浮かべました。 「ダイイングメッセージのティーカップ、あれはカップを現していたのよ」 と、占い師はタロットカードの中から1枚カードを引き抜いて見せてくれました。 2人の人間がそれぞれ手にカップを持っている絵柄です。 さらに他のカードもテーブルに広げました。 「タロットカードには大アルカナと小アルカナって呼ばれるものがあるの。 こっちの0から21までの数字と名前が書かれてある絵札が大アルカナ。 クラブの2の現場に落ちていた種類ね。 そしてこっちの数字だけの絵札が小アルカナ。 カキの現場に落ちていた種類よ」 小アルカナには杖、カップ、剣、コインの4種類うちいずれかの絵が描かれてありました。 書かれてある数字によって杖、カップ、剣、コインの描かれる数も違うようです。 「小アルカナは1から10までの数札とキング、クイーン、 ナイト、ページの絵札の計14枚1組が4つあるの。 それが杖、カップ、剣、コインね。 この56枚からトランプが生まれたと言われているわ」 杖はクラブに変わり。 カップはハートに変わり。 剣はスペードに変わり。 コインはダイヤに変わり。 「ナイトとページは1枚のカードとしてジャックになり、 これに大アルカナの【愚者】をジョーカーとして入れてトランプの完成」 ということは2個のカップが示していたものは。 「ハートの2なのね・・・」 次の日、改めて占い師の所へやってきた日向とワトソンと月女は 美味しくお茶をいただいていました。 「どうやら犯人は捕まったみたいね」 「自白したみたいだよ。 スズラン夫人とカキの四女、クラブの2の殺害をね。 ジョーカーに問い詰められたら自白するしかないもんねぇ。恐いもん」 よくは分かりませんがワンダーランドで一番恐いのはジョーカーだという噂があるようなのです。 「動機はなんだったんだい」 ハートの女王の警護から帰ってきたイヌミミ少年が聞きました。 答えたのは占い師です。 「逆恨みと痴情の縺れ、そして身代わりね」 どうやら占いで事件の顛末は既に知っていたようです。 「痴情の縺れって・・・カキが恋人だったの?」 恋人に別れを持ち出されたハートの2はスズラン夫人に相談したのですが 占いでどうにかなるものでもなく、結局別れることになったのです。 しかしそれを占いのせいだと逆恨みをしスズラン夫人を殺害。 別れ話を持ち出した恋人も憎さのあまり殺害したとのことでした。 「最初からスズラン夫人を殺すつもりで彼女のところへ行ったハートの2は、 ナイフで刺して事件の発覚を遅らせるために鍵をかけて逃げたんだろうね。 そしてローブを着て別人に成りすまして鍵を開けに行った。 どこの誰かもわからないローブの人物を犯人にするためにね」 「戻ったのならスズラン夫人のダイイングメッセージは見たのよね。 なのにどうしてそれを無視したのかしら? 結局あのティーカップがあったからこそ犯人に繋がったのに」 「無視したというよりも意味が分からなかったんでしょうね」 月女の疑問に占い師が答えました。 「あれはタロットカードに詳しくなかったら分からないものだから。 カップが2つで自分のことを指しているとは思ったでしょうけど ローブの人物・・・ハートの2はスズラン夫人の所から戻ってくる 帽子屋さんと三月ウサギくんにすれ違ってるのよ」 それでティーカップ=帽子屋、三月ウサギと思わせるために残していたわけでした。 「でも僕達がローブの人物を怪しんで探していたのを知ったハートの2は代役を立てた。 それがクラブの2だね。 え、最初はローブの人物を犯人にするはずだったんだから 代役なんて立てなくてよかったんじゃないかって? ローブの人物だけを怪しんでいたらそれでよかったんだろうね。 どこにもいないローブの人物を永遠と探すだけだから」 ですが帽子屋さんたちを犯人に仕立てたのにローブの人物も怪しいとなると 矛盾が生まれ、この事件全体を見直される恐れがあります。 いつ何がきっかけで自分にも嫌疑がかかるか分かりません。 そこで代役を立てたのでした。 クラブの2もまさか『事件の捜査を終わらせるための犯人の自殺』 という代役までさせられるとは思っていなかったでしょう。 「それにしても事件現場からタロットカードをわざわざ盗むなんて何を考えてるんだろうね。 最初から連続殺人にするつもりだったのかな」 「それについてはおかしなことを言ってるんだよねぇ」 事件についてはすべて認めたハートの2ですがただ1つ、 タロットカードを奪ったことについては否認しているのです。 事件に繋がる物を持ち出すなんてバカなこと絶対にしない、触れてすらいない、と。 「でも家に帰ったらあったんだって、2枚。 カキとクラブの2の殺害現場にカードを残したのも カードの処分も兼ねてなんだろうね」 「それって・・・・・」 月女と少年は顔を見合わせました。 「スズラン夫人の亡霊の仕業・・・・・?」 「え、でもなくなっていたカードは3枚よね。 ちゃんと数えたものね、朝比奈くん」 「うん、そうなんだけど残りの1枚については本当に知らないって」 ならば最後の1枚はどこに行ったのでしょうか。 占い師の占いでもカードの行方は分かりませんでした。 「これからハートの2はどうなるんだい」 「殺人3件だからね。トランプ兵の役職剥奪のうえ終身刑だろうね。 ハートの2、クラブの2の役職には後任の新しいトランプ兵が来るんだって」 しかしハートの2が牢に入ったのはたった1日だけでした。 牢から出たとき、彼の息はすでにありませんでした。牢の中で首を吊って死んでいたのです。 3つの命を奪った罪の重さからの自殺でしょうか。 関係ない人物を犯人に仕立てて殺した人物がそのようなことをするとは思えません。 ですが牢は完全に密室で、不審な点もなかったというのです。 そしてその死体の足元にはスズラン夫人の現場からなくなった タロットカードの最後の1枚が見つかりました。 【カップの2】が。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ここはワンダーランド。 ちょっと気の弱いハートの王様とワガママなハートの女王様が治める国。 ウサギやネコや青虫などの奇妙な住人たちが面白おかしく暮らす不思議の世界。 毎日のように事件が起きる、非日常が日常な日々。 きっと明日も何か奇妙で不思議な事件が起きることでしょう。 fin ■ あとがき ■ 似非ミステリをここまで読んでくださってありがとうございます。 似非なので軽ーい気持ちで読んでくだされば幸いです。 今回は、以前見た映画「タロットカード殺人事件」が あまりにもタロットと殺人事件に関係ない映画だったので それが悔しくて書いたまでです。 いつかタロットと事件を絡ませて書きたいと思っていたのでよいきっかけになりました。 タロットと殺人事件を絡ませて書けただけで満足なので ミステリとしての部分が温くても生暖かい目で流してください。 前作に続いて犯人がトランプなのはどうかと思いましたが・・・・。 犯人も冒頭とスズラン夫人の所へ行った順番だけで分かってしまいますしねー。 キャラについて簡単に。 アリス月女・・・志乃神月女(しのかみつきめ)。不運少女。 シロウサギ日向・・・朝比奈日向(あさひなひなた)。探偵好き少年。 帽子屋・・・年寄り口調の青年。 三月ウサギ・・・ナマイキな少年。未だミルクティー。 ダム&ディー・・・仲はいいが自分の方がいい男だとお互いに思っている。 チェシャネコ・・・ピンクのネコ。ピンクなのは恵麻がピンクのネコが好きだから。 カキの四女・・・白い肌にぷるんぷるんのバディ。いい女。 樫の木のおじいさん・・・にこにこぷん世代としては喋る木といえば樫の木。 トランプ兵・・・トランプの姿をしていますが実は・・・。 今回はタロット絡みということで彼女と彼が登場しました。 恵麻のオリジを知っている方ならご存知のあの2人ですw 作中登場した青というキャラは友人のRさんのお子さんです。 オリキャラコラボしてみました。コラボは楽しいです。 元々学園ミステリが書きたくて作った日向と月女ですが、 学園ミステリは無理だと判断したので今後この不思議の国のアリスを 基にした形でやっていきたいと思います。 目指せ、お手軽簡単ミステリ! 2008.02.06